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霜月 その言葉通り 霜が降りる月。

神無月には、日本の神々が出雲の国に集まり、その土地土地には神々が留守になり、また霜月には、またそれぞれの国に帰るという言い伝え。


お帰りになられた神々や氏神に、秋の実り 収穫の祭りで祝う事から、神帰 神楽、などとも呼ばれます。

立冬を過ぎる頃から 山茶花梅雨と言う雨がしばらく続くのですが、このあたりから朝晩は冷え込み始めます。

私も父が急死した幼少の頃、丁度七五三の年で、田舎の祖母とこの日を迎えました。
朝からあいにくの雨でしたが、祖母は母に手袋と雪よけの草履を母に容易をさせましたが 案の定 その雨は霙から細雪に変わり それは境内に咲く 山茶花 竜胆 柊 等 も可哀想な程冷え込んだ事を憶えています。


冬へ来て 山もあらはに木の葉降り

残る松さえ 峰に 厳しき 祝部成茂


雪にかわった 七五三の日 記念写真を取り 雪のちらつく境内からの通りは 傘を挿すもの 雨のカッパを着るもの 皆寒さからか、近くの甘味処や お蕎麦屋さん 鮨屋さん ラーメン屋さんに駆け込むように飛び込んで行きました。

祖母と母と私は鮨屋さんに入り 食事をしたのですが、まだ子供ながら、二人の雰囲気がこれからの事について話をしていた事は何となくわかったのですが、まだはしゃぎたいさかりで 私は湯呑の茶をこぼし、それはひどく叱られた事を憶えています

祖母は、私の手を握り
貴方は小さい時から、わがままも言わず、いろいろ我慢してきたわね.

母は、震える声を抑えながら 静かに泣いていた様でした。

男泣きに

泣かむと すれば 竜胆が

我が足下に ひかりつ いたり。 北原白秋

真紅なる 山茶花一つ 散り残し

美しきものの 寂しさを 見る。 窪田空穂


盆地でしたので、山裾にうっすらと白い絨毯が引かれるのを お鮨屋さんの窓から眺め 私達は食事を静かに済ませ、タクシーを待ちました。

この歳は、その後、何度か霙が降りましたが、祖母と母は松の木は鳶の職人に雪支度の縄締めをしてもらい 庭や植木などは、自分達で雪囲いをしておりました。

壁腰の花等は 昨年作った竹のしの雪よけを設え、これから来る冬に備えるのです。

(こっちの山野草は 根腐れしない様に 植木鉢に移しましょう 植木鉢を大きさ別に持ってきて頂戴な )
祖母は私に 土入れや、花事の肥料の違いや 赤土 腐葉土のバランスの違いを話していた事を思い出します。

(こんな小さな植物も、暑い夏も 寒い冬も乗り越え しっかり生きているのね。

あなたも負けないで しっかりしなければなりませんよ)

古い物をとても大事にする人で、毎日朝は、家紋の入った道具箱から削り節を取り出し 台所の厨場で正座で鰹節を削るのが日課でした。

私は、もう削ることの出来ない鰹節の尻尾をもらい キャンデーのように口でしがむのが好きでした。

(ねずみみたいで、はしたないわね )と怒られます。
でも、いろいろな物をつまみ食いするのは、楽しいものです。

(つまみ食いするなら お手伝いしなさい)と叱られますが、蜜柑の皮と柚子の香りと共に漬けられた白菜 胡瓜を丸のまま一緒に食べると美味しい自家製の味噌 糠漬けや 干物 乾物 塩漬けされた 山菜等のなど、1日居ても飽きない場所でした

ご馳走 馳走 四季をとうし 山の物 海の物 事欠かない日本 、このご馳走と言う言葉は 本来意味が違うのでしょうね。

千利休が、ある茶人の所を訪問した際の出来事、設えた生け花、座敷に通され さあ一献と言う時、主人が供したのは 先ほど師匠の為に届けさせた蒲鉾 素晴らしい焼き物の器に極上の蒲鉾は揃えられ出されました

利休は、怒り 貴方は目の前の庭にある柚子の木が見えないのかと 届けられた小田原の蒲鉾などと愚の骨頂 柚子の実で、ゆず味噌でも設えたら どれほど茶の心にかなっているかと 。
素材の豪華さやこれ見よがしの 珍味ではなく、今そこにあるもの ここでしか食べれないものを主人が工夫し、本文である一服の茶の為に その客をもてなす事
心を配らずに 馳走とは そして茶の心が理解しておらんと その場から帰路に立つ利休。


私が修業中、少しばかり仕事を覚えた頃、天狗になっていたのか、親方はそれを見抜き

(てめえ 奢っていやがるな、料理がうるさくってしょうがねえぜ どうだ凄いでしょうって言ってるぜ。)

人間一度 高くなった鼻をへし折られなければだめですね。

たっぷりと油を絞られた日は 川筋のおでん屋で 親方が一杯誘ってくれるのですが、その皿のちくわぶ 大根 つくね どれひとつとっても 出しゃばらず、ほどよいバランスです

(料理は、ナルシストじゃだめだぜ、相手があってこその花だ )

そろそろ、大根も太く甘くなる頃、風呂吹きや 鯛かぶら 美味しい出しと炊きましょうか。

霜月秋冷 海も山も川も、賑やかになってきました。
ようこそ ようこそ お待ちしています。

土萌ゆる 草枯れしむ

菊水庵

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作者:バンコクの地で44年 菊水レストラン

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